会長の”三行日記”

2015.06.11

両投げ投手 No.2719

 両投げ投手がいることに驚きました。しかもあの大リ-グにです。スイッチヒッタ-と言って、右投手には左で打ち、また左投手に対しては右で打つバッタ-は多くいるものですが、右打者には右で投げ、左打者には左という両腕を使って投げ込むことのできる投手は稀有な存在です。

去る6月5日、レッドソックスの本拠地フェンウェイパークの球場で、アスレチックスのパット・ベンディットという両投げ投手がメジャー初昇格即登板を果たし、2-4で迎えた七回から2イニングを投げて1被安打無失点と好投したのです。

近代メジャー史上では、かつてエクスポスの右腕グレッグ・ハリスが1試合だけ打者2人に左手で投げるということがありましたが、彼は1試合限定の登板でしたので、常時左右で投げ分けるベンディットは事実上、史上初の“本格的両投げ投手”の誕生ともいえるわけです。 

それにしてもただ投げることができるというだけではなく、大リ-グの投手としてスイッチピッチャ-という形で打者に向かうことができるのだから凄いものです。まさに天が二物を与えてくれたとも言えるのではないでしょうか。

彼はその幼少期、左右同等に優れた身体能力を持っていたそうです。そしてそれに着目した父の影響で3歳の頃から左でボールを投げ始めたと言います。ですから元々は右利きではなかったかと思われますが、反対側の腕も意識して鍛えたのでしょう。

私たちのように少しでも野球をかじったことのある人間なら、左右で打つバッティングに比べ、左右両方の腕で投げることの方が限りなく難しいことだと察しがつきます。それは両手で箸を使うようなことより、デリケ-トで微妙な手の感覚が要求されるからです。

投げるときボ-ルを最後に手から離すとき、手首のスナップももちろん必要ですが、リリ-スポイントとして指先の微妙な感覚が投手には要求されるからです。またスイッチヒッタ-は投手の投げる腕の反対側に構えるとボ-ルが見やすく打ちやすいからですが、両投げ投手は打者が腕と同じ側にいるわけですから、むしろ投げにくいとも言えるのではないでしょうか。

とにかくこんなわけで、ここまで辿り着いたその凄さを感じているわけですが、もう一つ陰で支えていたのが日本のグラブメ-カ-であることを知らされました。野球規則で投手は投げる反対側の手にはグラブをはめなければいけないという項目があります。

そのため両投げ投手用のグラブが必要なのです。これを以前からいち早く開発し、サポ-トとしていたのが日本のミズノ社だったのです。左右対称で真ん中にポケットがあり、両端に親指が入る6本指の特注グラブなのです。

聞くと今でこそ他メ-カ-でも出しているとのことですが、30年近く前からミズノ社は手がけていて、ベンディット投手も22年間ずっと使い続けていると言います。ここにもモノづくりとサ-ビスに定評のある日本の企業が貢献しているのです。

華々しい両投げ投手のデビュ-の裏にも、私たち日本企業が携わっていたと聞くと、思わず嬉しくなってしまうものです。ただ専門的に一流選手のモノを手がけるだけでなく、指にハンディキャップを負った人やこうした販売市場では保証のない分野にも変わらぬ情熱を注いできたメ-カ-の姿勢に敬意を表しています。