会長の”三行日記”

2012.09.11

藤本氏の勇気と決断 No.2274

8月の末、日朝政府間協議(予備協議)が3日間の会議を経て終了しました。実に4年ぶりに開かれたのですが、これも少なからず、元金正日総書記の料理人だった藤本健二氏の存在が影響したのではないでしょうか。
 
というのも、藤本氏は今年7月下旬から8月にかけて、金正恩・第1書記の招きで平壌を訪れていたのです。その様子が新聞にも詳しく書かれていましたので、少し紹介したいと思います。
 
藤本氏は正恩氏が幼かった頃の遊び相手です。1982年、月給50万円にひかれて、平壌のレストランの料理人となった藤本氏は、作ったすしを気にいられ、金正日氏の専属料理人となり、正恩氏や彼の母親である故高英姫夫人らと親しく過ごしました。
 
そうした生活は13年間にも及びましたが、軟禁状態に置かれていたようなこともあって、やがては恐怖を感じるようになり、2001年、日本に生鮮品を買い付けに行くと言って出国し、戻りませんでした。
 
その後は日本で、ベ-ルに閉ざされたこのファミリ-などの日常を著書などで示していたことは、私たちの知るところです。そして今年の6月になって、自宅近くで連絡役と接触し、家族ともうひとかたが会いたがっていることを伝えられました。
 
信じられず一度は断わった藤本氏でしたが、1ヵ月後「2001年の約束を果たそうではないか」との正恩氏のメッセ-ジを受け取り、これが紛れもなく同氏の言葉であることを理解しました。
 
日本に帰国する際、藤本氏は正恩氏と「必ず戻ってくる」という約束を交わしていたからです。こうして訪朝することになったのですが、「裏切り者の藤本、帰って参りました」と非礼を詫びる同氏に、正恩氏は「もういい、いい」と正恩氏は温かく迎えてくれたというのです。
 
政府の要人しか立ち入れない施設の宴会場で昼食をごちそうになり、11年ぶりの対面に涙を流しながら正恩氏と抱き合う写真まで載っていました。そして両国の架け橋になりたいと、携えたメッセ-ジが通訳の手により読まれたのです。
 
敬愛する金正恩将軍、お願いです。横田めぐみさんたちを日本に帰国させてあげてください。そうすれば、日本との国交正常化や日本から多額の資金を引き出す道も必ず開けると思います
 
これを聞きながら「うん、うん」とうなずきながら、最後まで聞いていたと言われます。このように北朝鮮の現状ではこれ以上、活路を見出すために切り出すカ-ドがないとも言えるのではないでしょうか。
 
大多数の国民は干ばつなどの被害により飢えに悩まされ、経済は逼迫状態です。従って間接的に藤本氏を通して、交渉を求めてきたのではないでしょうか。そう考えると拉致問題を解決できる最後のチャンスとも言えるわけです。
 
横田さんご夫妻もだいぶ歳をとられました。おそらく生きているうちに、こうしたチャンスはもう何回も訪れないことでしょう。それだけに何とか無事な姿だけでも見せてあげたいものです。そういった意味でも必死で北朝鮮に渡った藤本氏の勇気と決断を無駄にしたくないものです。