会長の”三行日記”

2015.10.16

ちょっと良い話126 No.2777

 ネット上で商人の鑑(かがみ)とか、顧客と丁寧に向き合わないと書けない文章などと言われて話題になり、称賛されているメッセ-ジがあります。書いたのは羊羹などの老舗で知られる、虎屋17代の黒川光博社長です。

これは本社ビルの建て替えに伴い、今月7日いっぱいで赤坂本店の営業を一時休止することを知らせるための内容です。その話題になっているメッセ-ジをちょっと紹介させて下さい。

「十七代 黒川光博より 赤坂本店をご愛顧くださったみなさまへ」

「3日と空けずにご来店くださり、きまってお汁粉を召し上がる男性のお客様。毎朝お母さまとご一緒に小形羊羹を1つお買い求めくださっていた、当時幼稚園生でいらしたお客様。

ある時おひとりでお見えになったので、心配になった店員が外へ出てみると、お母さまがこっそり隠れて見守っていらっしゃったということもありました。車椅子でご来店くださっていた、100歳になられる女性のお客様。

入院生活に入られてからはご家族が生菓子や干菓子をお買い求めくださいました。お食事ができなくなられてからも、弊社の干菓子をくずしながらお召し上がりになったと伺っています。

このようにお客様とともに過ごさせて頂いた時間をここに書き尽くすことは到底できませんが、おひとりおひとりのお姿は、強く私たちの心に焼き付いています」

まさに長い歴史の中で迎えたお客様とのやり取りを、行灯(あんどん)をモチーフにした本社ビルの思い出などを振り返りながら語っている文章です。虎屋さんの御殿場工場とは弊社もお付き合いがあるのですが、その歴史は古く、創業は室町時代後期とも言われています。

京都で菓子屋として始まり、御所にも納めていたそうで、明治維新後、東京に本拠を移し、小豆と砂糖、寒天でつくる羊羹の製造販売で有名になったのです。また黒川社長は銀行勤務を経て69年に入社されたとのことです。

そしてネットで反響を呼んでいる関係から会社に取材をお願いすると、取材の礼を述べながら社長の想いはホ-ムペ-ジに掲載した通りで、丁重に辞退させて頂きたい旨、広報課からメ-ルが届いたそうです。

変にこうした騒ぎに便乗しないところがまた奥床しくてよいものです。やはり老舗というものは本来こういうものなのでしょうね。何よりも今日まで会社が存続できているのはお客様あってのものという、感謝の気持ちが滲み出ている挨拶文です。爽やかな気持ちになりますね。