会長の”三行日記”
2014.01.17
忘れてはいけない東北 No.2512
日本文学者の中にドナルド・キーンさんという方がいます。日本が大好きで日本の文化にとても親しんでいる人です。そのキーンさんが日本に戻り3度目の新年を迎え、以下のような警鐘を鳴らしています。
米国ですしを広めたのは米国人だったと言われています。そして当の日本人は日本文化は外国人には理解できないと思いたいのでしょうが、刺し身も喜んで食べると言い、納豆も食べれると答えると皆がっかりします。
そんな日本ですが、東京が五輪を勝ち取ると国内は一気に沸きました。でもキーンさんは懐疑的にこう述べています。本来のオリンピック精神からかけ離れ、極端に多額のお金を使って人々をびっくりさせるイベントになっています。
どうしても日本でやりたいなら、東北でやればいい。東北なら意味があるでしょう。また五輪だけではありません。ボーナスが上がったと喜ぶ人や、高級時計が飛ぶように売れていると報じるテレビを見ながら非常に心配になりました。
景気が良くなっていく裏側で、憲法を変えよう、原発を進めようという動きがあります。今の私を形作る大きな体験の一つが、太平洋戦争中にアッツ島で目撃した玉砕です。上陸した私たち海軍を待っていたのは、自ら命を絶った多くの若者だった。
今もあの光景は言葉にできない。それなのに、憲法を変えるという。世界で最もすばらしい憲法を、日本は捨てるのでしょうか。東日本大震災の直後、日本に戻ったキーンさんがとった行動は被災地を励ますものでした。そしてこう述べています。
被災地ではまだ仮設住宅で生活している人がいます。仕事場のない人が大勢います。東北の人口がどんどん減っている。その一方で東京の街は明るい。みなさん、東北を忘れているのではないでしょうか。
どんどん風化していっているような、震災後の東北に対しての対策や人々の意識に、鋭い指摘をしています。まさに日本を外側から眺めることのできる人だからこその、気づきではないでしょうか。
そしてその指摘は政治の世界にも及んでいます。真っ先にやらなければいけないことは何なのか。やれ憲法改正や原発再稼動なんて言っている場合ではない、全てに優先してやらなければいけないことは何なのか。
6年後の東京五輪を控えて浮かれている、私を含めた多くの人たちに何か忘れていることはありませんか、というキーンさんならではの鋭い警鐘です。震災後もうすぐ3年を迎えるというのに、一向に進まない被災地の復興を考えなければいけないときでもあるわけです。