会長の”三行日記”
2012.09.26
お客様は神様か No.2283
過日の新聞に「お客様は神様か」ということに触れていました。ご存知、この言葉は歌手の亡き三波春夫さんが「お客様は神様です」と言ったのが、その始まりのようです。
でも三波さんの長女・美夕紀さんによると、多くの人が思っていることと、その真意はどうやら違うようです。私たちはこの言葉を、お客様はとにかく絶対的存在で、多少のわがままがあってもそれに従わなければならないと理解していました。
しかしお客様イコ-ル神様ではなく、浪曲の道を究めていた三波さんが、お客様を神様のように見立て、雑念を払って歌うという、舞台人としての強いプロ意識を表わした言葉だったようです。
小さな新潟の村で生まれた三波さんは、本屋の次男坊として育ち、ラジオで覚えた浪曲が好きであぜ道で一日中歌っていたそうです。そんな三波さんを眺め、近所の人がほめてくれ笑顔が絶えなかったのが歌の道を志すきっかけでした。
やがて家業が潰れて上京することになり、住み込み奉公後、16歳で日本浪曲学校に入りました。浪曲師として全国を歩くのですが、お客様は耳が肥えていて、芸がまずいと勝手に幕が引かれることもあります。
ですから舞台はまさに真剣勝負です。浪曲は瞬時に多くの役柄を演じ分けなければならないため、雑念があるとうまく表現できません。こうして神前に立ったときのような澄み切った心が必要とのことで、あの言葉が生まれたのです。
従ってゴマすりや、へつらいの言葉でもないのです。私も含めちょっと意味を取り違えていたこの言葉は、長い間、接客の王道とされてきました。それに一石を投じたのが航空会社のスカイマ-クが示したサ-ビス方針です。そのコンセプトの一部は次の通りです。
お客様の荷物はお客様の責任においてご自身で収納をお願いいたします。収納が困難と思われる荷物はチェックインカウンタ-にて事前にお預け下さい。
客室乗務員同士の私語について苦情を聞くことがありますが、客室乗務員は保安要員として搭乗業務に就いており接客は補助的なものと位置付けております。お客様に直接関わりのない苦情についてはお受け致しかねます。
機内での苦情は(一切受け付けません)運航に影響が出る可能性がある場合はお受けできません。ご理解いただけないお客様には定時運航順守のため退出いただきます。ご不満のあるお客様はスカイマ-クお客様相談センタ-に連絡されますようお願いいたします。
上記の( )内の言葉は消費者庁などの抗議を受けて改める前の表現です。ずいぶんと高圧的にも感じられる文言でもあります。でも長い間、特別な乗り物として位置付けられていた飛行機ゆえ、特別なサ-ビスを受けるのが当たり前として、近年クレ-ムが増えてきているのでしょう。
何しろ低価格で特別な乗り物ではなくなったから、余分なサ-ビスなどできなくなっているのです。こうしたわがままな客(クレ-マ-)に対しての会社側の対策が、上記の表現として出てきたのです。
だからと言って、企業メッセ-ジとして出したこのコンセプトは、あまりにも乱暴のようにも受け取れます。こんなことまで書かなければいけない世の中になってしまったのかと、少し寂しい思いにも駆られるものです。
お客様は神様ではありませんが、あまり割り切った関係ではなく、相互に「ありがとう」や「お願いします」などの言葉が溢れる、気持ちよい関係に努めることが必要ではないでしょうか。