会長の”三行日記”

2012.05.14

侮れない春山 No.2207

5月の連休中に、北アルプスで8人もの人が亡くなるという遭難事故が相次ぎました。亡くなられたのはいずれも私たちの年代や、それ以上の人たちばかりです。
 
そのうち6人が亡くなったのは白馬岳を目指した一行です。一行は3日から2泊3日で、長野県小谷(おたり)村の栂池(つがいけ)から白馬岳を往復する予定で、3日夜に栂池ヒュッテに宿泊し、4日の早朝、弁当を2人前ずつ持って山に向かったとのことです。
 
このパ-ティ-は医師を中心とした九州の人たちですが、宿泊したヒュッテから白馬岳への所要時間は速い人で6時間、天候や雪質によっては8時間以上は必要と言われています。
 
ところがこの日の午後1時半ごろ、途中の小蓮華山頂上にいた登山客が、登ってくるこれらしきグループを見掛けています。もしそうだとすると、それから白馬岳を目指すには時間的にとても遅過ぎるというのです。
 
また登山を開始した時点での天候は晴れということで、この時期にしては暖かい陽気だったとのことです。それゆえ、6人は長袖シャツにベスト、ズボンという、夏山でも歩く格好だったと言います。
 
決して死者に鞭打つつもりはないのですが、こうした引き返す判断や、何が起こっても対処できる用意周到の準備を怠っていたのではないでしょうか。
 
ちょうどこの少し前の29日に出発する、北アルプス・常念岳に登る1泊2日の登山に、お客様からお誘いを頂きました。生憎、連休工事で忙しかったため、お断りさせていただいたのですが、こちらの方は全く無理のない工程で組まれていたようです。
 
お客様の学生時代からの親友が、昨年、この常念岳で無念の死を遂げた、追悼の意味合いを込めた登山だったのです。亡くなられた方もヨ-ロッパの有名な山々にも挑戦していた、超ベテランの登山家でしたが、この春山の思いもしない天気の急変に還らぬ人となってしまったのです。
 
ですから、それくらいこの時期の山は6月中旬まで雪が降ると言い、冬山と何も変わらないくらいの危険と隣り合わせなのです。従ってそのいでたちにしたって、発熱効果のある下着、フリ-ス、風を遮る上着、防水透湿性のある雨具が欠かせないと言われています。
 
こうしたことから今回の追悼登山にしても、当初の無理のない計画でも、相当な荒天の場合は中止すると、うたわれていたくらいです。やはり春山は侮れないのではないでしょうか。事故後、新聞にある大学教授がこんなことを話していました。
 
「高齢者は自分が思う以上に、体力の消耗が進む。不調を感じたら、なるべく早く引き返したり、雪洞を掘って避難したりする対応が必要だ」。くれぐれも慎重な計画と、用意周到な準備が求められているものです。