会長の”三行日記”
2011.01.28
ちょっと良い話part70 No.1945
今年の冬は本当に厳しい寒さが続いています。そんな中でも雪の降らない我が地域は恵まれているとも言えるものですが、北陸や日本海側の地方では主要幹線道路もストップしてしまうほどの、豪雪に見舞われていると伝えられています。
この季節の到来前に気象庁の出した、厳冬という事前予報が残念ながら的中してしまったわけですが、過日の新聞に「ぬくもりがつながって」という心温まる記事が載っていました。
それは元旦の朝のことです。日本海を望む鳥取県琴浦町に住むGさんは、いつもと同じ午前6時前に目を覚ましました。大晦日から降り続いた雪は、もう腰の高さまで積もっていました。
こんなに積もるのは初めてと思いながら石油スト-ブに火を入れたその時でした。トントントン、入口のサッシをたたく音がして、開けると50歳くらいの女性が真っ青な顔で立っていました。
「すみませんが、トイレを貸してもらえませんか」聞けばこの先にある国道9号線で、車が立ち往生していると言います。すがる思いでポツンとともる灯りを頼りに、雪の中を訪ねてきたのです。
「こらぁ大変だ」見たこともない長い車列に驚き、仕事上のトイレを使ってもらおうと決めました。こうして人口1万9千人の琴浦町の人たちは、いつもと違うお正月が始まったのです。
高速を使わない大型トラックが普段から多い国道9号は、大晦日は帰省や観光の車で更に混み、そこを吹雪が襲いました。スリップした大型タンクロ-リ-が道をふさいで渋滞が始まり、約25km、車1千台が立ち往生したのです。
看板工房を営むGさんは仕事柄、看板作りはお手の物。1m四方の白いベニヤ板に赤いテ-プで「トイレ→」と書いた看板を作り、国道脇と自宅前に立て掛けました。
次々と人がやってきました。赤ちゃんを連れた若い女性は、ミルク用のお湯が欲しいと小さなポットを持ってやって来ました。「寒かったろうに」長男のTさんは毛布を持ち出し、お湯と一緒に手渡しました。
「ありがとうございます」女性は何度も頭を下げて車に戻りました。またパン屋を営むKさんは入っている消防団から安否確認を頼まれ、渋滞の車を1台ずつ窓をノックして回りました。
空腹をあめ玉でしのぐ子どもがいたり、ガソリンが十分なく暖房がつけられない車もあったので、すぐに母に電話をしました。「ありったけの米を炊いてくれ」こう言って公民館から大きな釜を2つ借り、自宅にあった1俵半の米を全部炊いたのです。
近所の女性にも役場に集まってもらい、疲れをとってもらおうと塩を少し多めにおにぎりを作り、配り歩きました。汗だくになり、一度着替えて夕方まで掛かって配り終えました。
「目の前に困っている人がいたから...。お互い様じゃけね。」またトイレを借りに来る人にコ-ヒ-を振舞った喫茶店店主や、阪神大震災で家が半壊した、神戸市から帰省中の人も、日が落ちてからも首に懐中電灯を下げ、「バナナいりませんか」と声を掛けて歩き回りました。
「寒さ、空腹、不安を感じているのは、あの時と同じ。自分だけぬくぬくとはできへん」との思いからです。「琴浦はそんな土地柄です」と、国道沿いでまんじゅう店を営み、自らもまんじゅう1200個を配ったYさんはこう語っています。
何とも心温まる話ではないでしょうか。この琴浦町の人々は元日に一日飛び回っていて、おせちを食べるのも忘れていたと言います。私たちの知らないところで、こんなに素晴らしい活躍をされている方がいるものです。まだまだこの日本も捨てたものではないと、明日に繋がる少し嬉しいお話でした。