会長の”三行日記”

2016.10.12

ノ-ベル医学生理学賞 No.2905

 今年のノ-ベル医学生理学賞に東京工業大学の大隅良典栄誉教授が決まりました。細胞の健康状態を保つため、不要になったタンパク質などのゴミをリサイクルする仕組みと言われる、オ-トファジ-なるものを解明したとのことです。

しかしオ-トファジ-と言われても、私たち素人には全然その意味が解りません。そこでその仕組みを新聞等で少し調べてみました。言葉からすると英語のように思われるのですが、オ-トがギリシャ語で「自分」、またファジ-は食べるを意味しているそうです。

つまり自食作用ということですが、これは細胞が健康な状態を維持していくのにとても重要な働きを果たしているのです。私たちの体は約60兆個の細胞からできていて、絶えず新しい細胞に生まれ変わっています。

その生まれ変わりに関係しているのがこのオ-トファジ-で、栄養状態が悪く細胞が飢餓状態に陥るようなことがあると、自分自身のタンパク質を分解してエネルギ-として再利用し、新たな細胞を生み出しているとのことです。

それではこれが働かなくなるとどうなるかということですが、細胞内のゴミや老廃物を浄化したり、細胞内で作られるタンパク質の品質を管理することができなくなると言われているのです。

その結果、この異常ががんや糖尿病、パ-キンソン病、アルツハイマ-病などの発症に関わっていると見られています。大隅教授はこうした細胞内の複雑な働きに着目し、観察しやすい酵母を使ったのです。

その結果、栄養が少なく、おなかをすかせた飢餓状態に酵母を置くと、内部にある小さな器官がタンパク質などを取り込んで食べていることが分かりました。大隅さんはこの現象を世界で初めて顕微鏡で観察したのです。

また動物の細胞内にあるミトコンドリアという器官は、生命活動に必要なエネルギ-とつくっていて「細胞の発電所と呼ばれています。このミトコンドリアの働きが低下すると老化が促進されると言われていますが、品質が落ちたミトコンドリアを狙い撃ちして除去するのもオ-トファジ-の働きの1つと言われています。

ですからオ-トファジ-について、様々な病気との関連が注目されるようになったのです。その後、現在に至るまでこのオ-トファジ-の仕組みをさらに解明し、細胞内のリサイクルの仕組みを治療につなげようと、製薬会社と共に研究にしのぎを削っているとのことです。

それにしてもこうした研究者の地道な努力にも頭が下がります。聞くと近年、防衛戦略などの研究には奨励していることから予算がついていますが、国策に関係ないようなものにはあまり予算が下りないと言われています。

つまりかなり不遇な環境の中で、流行やら資金の流れやら政治やら、学術の本質と関わりのない一切を切り捨ててこられた独自の研究だっただけに大いに評価されるところではないでしょうか。ですが残念なことに段々こういった地道な研究者は少なくなっていくのではないでしょうか。