会長の”三行日記”

2012.03.02

首相の器その2 No.2168

民主党・野田首相と自民党・谷垣総裁が密談したなどと、大きく騒がれていますが、果たしてその真相はどうなのでしょうか。このきな臭い話は置いといて、先日少し触れさせてもらった、首相の器という続編です。
 
池上さんと御厨教授との話し合いでの結論は、首相が機能を果たせなくなったのは官僚を排除したことにあるというのです。欧米では大統領や首相の在任期間は5年以上という国が多いそうです。
 
そんな欧米と比較し、我が国の「首相の器が小さい」というのは、単に政治家の資質の問題だけではなく、日本の政治的な特性かもしれないと言われるのです。仮にもアジアでは、他国に先駆けいち早く先進国の仲間入りを果たした我が国ですから、日本の政治が全く無能だったとは言えません。
 
では日本の首相はそもそも重要な存在なのか、という疑問が生じてきます。首相が短期で代わっても社会的混乱が起こらず、政治が機能していました。これは優秀な経済と優秀な官僚があったからというのです。
 
ですから極端に言えば、誰が総理になっても上記の2つの車輪がちゃんと機能していれば、大勢に影響はなかったとも言え、短命の首相たちや国そのものを経済と官僚が支えてきたと言っています。
 
55年体制以降は自民党内で首相になる競争が続き、勝った人間が首相となっていました。それでも多くの首相の在任期間は2~3年と短く、大局的には政策を進められない割には、何とか続いてきました。
 
こうしたリ-ダ-シップが首相に定着しているわけでもないのに、ある時を境に、この支えてきた官僚組織を政治の現場から排除してしまったというのです。
 
それは安倍政権の時からとのことです。お友達内閣を作り、自分に打てば響く組織を作ると同時に、官僚を行政の中心から追放してしまったのです。こうしてそれ以降の政権にも引き継がれ、民主党政権に至っては、誰もがご存知のとおり、官僚外しをますますエスカレ-トさせてしまったのです。
 
はっきり言って、今の政治家に単独で政治を動かす力があるとはとても言えず、行政を支えてきた官僚をうまく活用するのが現実策とも言えると指摘しているのです。
 
ですから官僚たちは仕事をしようにもなかなかやらせてもらえない、目立てば潰されかねないというのが現状なのです。これでは官僚の能力がどんどん落ちていき、質の低下にも繋がります。
 
かつて、「日本の官僚ほど優秀な人材はいない」と世界中で言われていました。それが官僚嫌いで有名だった菅首相のときには、御厨教授が議長代行を務めていた東日本大震災復興構想会議での提言を、官僚がまとめたことすら菅さんは知らなかったと言います。
 
官僚は信用できないと繰り返す菅さんに、彼ら官僚に手伝ってもらわなければ復興会議の委員は何もできないということを、伝えたくらいだというのです。
 
こうした政治家が機能せず、政治主導という言葉だけが独り歩きし、官僚から自主的行動を外したことから指示待ち体質に変わってしまったのが現在です。不幸にしてこんな時、東日本大震災が起こり、政治の混乱は更に増すことになりました。
 
そして政治が一番やらなければいけない必要なことを、時の首相はやりませんでした。それは全世界と日本国民に向けてのメッセ-ジの発信です。世界に向けても、日本は必ず立ち直りますから、ぜひ支援してくださいという発信です。
 
これが政治というものだと強調されるのです。そして官僚にもできない政治家の仕事、特に首相がやるべきことは、「メッセージ」と「決断」を下すことだと言われているのです。
 
こうした言葉が政治には大事なのですね。以上のことから、国を動かすのには、「メッセージを発信」し、優先順位をつけながらどんどん「決断する」というのが、首相の必須条件と理解できます。
 
こう考えてくると、他人の顔色など窺っている人間ではなく、強い信念の下で毅然として政策を進めていく人が首相の器なのでしょう。少し長くなってしまい申し訳ありませんが、残念ながら今の日本にはどこにもそんな人は見当たりません。この先に繋がる、明るい灯りが見えないようで、本当に残念なことです。